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不思議な少年7

そういえば7巻だけ持ってなかったので買った。



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やっぱりすごく面白かった。
一番好きな巻かもしれない。

「ジェイシイ・アダムズ」
「会社員Ⅰ」
「ヨコハマ・リリィ」
がとても好き。


「会社員Ⅰ」は、こういうパロディ作品の形は初めて見たのでとても面白かった。
メタ的なシナリオ?でもう一度読みたくなる。
「物語」の世界のメタファーと読者へのドッキリが上手く仕掛けられてて楽しい。
不思議な少年の世界だからできるお話だなぁと最後で府に落ちる。
それに、まさか山下和美が同人みたいなネタを使うとは…と、虚をつかれた気分になった(笑)


「ヨコハマ・リリィ」は、実在した地元の有名人「ハマのメリー」さんがモデル。
この人は『ヨコハマ・メリー』というドキュメンタリー映画にもなってたはず。

横浜育ちの友人(20代)は子供の頃に見たことがあると話してたなあ。
化粧品の匂いがぷんぷんするとかよく聞きますが、メリーさんは資生堂の白粉(昔っからある、水で溶く白塗りの白粉)を愛用してたらしいのでそれの匂いかなと考えている。あれ超匂いキツいからね…。まだ売ってるはず。
ハッピーバスデイのコロンも使ってたらしいが。

ちなみにメリーさんの若い頃を山下和美式にすると、「リリィ」という名のロリータキャラクターに。
戦後の焼け野はらにフリフリドレスのロリータは見たことが無い絵面。
キャラクターとしてもすごく可愛い。
あくまでも山下和美節の利いたパロディ作品になってて面白い。

しかし「戦後の娼婦」が21世紀になっても街に立ち続けていたってのはやっぱり特別な存在だったと思う。
で、すごいのは「スタイルを全く変えないまま」居続けたこと。
時代錯誤な化粧とドレスも恋人を待ち続けた事も、怖いくらいぶれない。
だから異様に見られるんだけど、「歴史がそのまま生きて同じ空間に居る」って感じがしただろうなと想像している…。

あと、メリーさんのお話はぜひ山岸凉子に漫画化してほしい。
天人唐草と似ちゃうかな?
読んでみたい。



「ジェイシイ・アダムズ」は、最近『謎めいた肌』と『残酷な神が支配する』を読んだので何となくタイムリーなテーマだった。
子供への性的虐待。

これらを読んでみて共通していたのが、成長してから虐待の記憶とどうケリをつけるか、ということだった。


幼少期の性的虐待において被害者が無意識に記憶をすり替えたり、亡失させたりする事があるという。
「小さい頃に宇宙人に拐われて体を弄られた」とか「どうしても思い出せない空白の時間がある」「記憶が無い」といった形で作品には描かれている。
ある種の自己防衛本能のようなものだろうが、これは「記憶を消去」している訳ではなく「記憶を思い出さないように隠している」わけである。
(こう考えると「意識」と「無意識」の違いって何なんだろうと思えてくる)

結局、被害者は往々にして「思い出せない記憶」を思い出そうと必死である。
とてつもなく大きなショックだったから押し込んだはずの記憶と向き合おうとするのである。

ジェイシイ・アダムズの場合は、不思議な少年が事件の記憶を抜き取ってしまったとして描かれている。
少年は、思い出さない方が良い、と渋い顔をする。
それでもジェイシイ・アダムズは真実を知りたがる…。

ここで以前マツコロイドの制作者が「自分を知ろうとするのが人間らしさだ」と言っていたのを思い出した。
だから芸術や学問が派生するのだと。

ジェイシイ・アダムズもまた、自分を知りたいと思っている。
この生きづらさの正体と向き合おうとする。
それが辛い記憶であっても取り戻さなければならないと思っている。

辛いと分かってても知りたがる。
それが人間だ、と いっても少年には不可解なのだ。
「人間て不思議だ」
という呟きが聞こえるようにいつも物語は終わる。


(ちなみに、ジェイシィ・アダムズの母は夫にも娘にも憎しみを抱いたようだが…
似たパターンだと中村明日美子の『Jの総て』がある。
あれは父親が息子に手を出し、その現場を目撃した母親が父親(つまり夫)にヘッドショットを食らわす。
息子は成長するにつれて「母はあの時、本当は自分を撃とうとしたのでは」と思うようになる。あの瞬間、自分は母に憎まれたのでは、と。
一人の女としての母親と対峙しなくてはならないのは辛すぎる。)

またこうした題材の作品を「気持ち悪い」「不愉快」と一言で拒否するのは早計である。
その不快さは正しく、これは時としてフィクションにならないことを知りおくべきである。


ちなみに、萩尾望都の『残酷な神が支配する』は心理学書のような漫画だった。
文学作品のように読み込める漫画で、登場人物ならず読者の心理も上手く動かされる。
萩尾望都恐るべしと改めて肝を抜かれる思いがする。
読むのにエネルギーが必要なため心が安定している時に読むのがおすすめ…。

『謎めいた肌』は分厚い文庫本があるが、海外で映画化もされている。しかし残念ながら日本未公開である。
れっつネット検索。